Moonlight scenery

     The moon to look up on the desert.
 


       




 相手は 陰で“一夜分限”なぞと呼ばれている、いわゆる成り上がりの豪士とやらで。ちょっとばかり顔の利く界隈という縄張りと、そこから収められる“みかじめ料”という小金とを持っていた身を、独裁をしいてる今のこの辺りの権勢者に見初められ。もっと絞り取れとのご使命、恭しくもうけたまわっての、今や複数地域に顔の利く、その筋での兄貴分にまでのし上がってる存在だとか。資金調達とそれから、恐怖政治の一端担っている跋扈の様子が、まるで執行官にでもなったような態度だそうで。旨みにあずかろうという取り巻きも増えた親分様、情報によれば、今宵は砂漠に出ての月見と洒落込んでおいで。何のことはない、権勢者からの連絡係がやって来るので、資金である砂金を渡しがてら今後の方針を拝聴する、そんな場としての郊外への遠出。その隙をついて、

 『いきなりヤレとは言わぬが。』

 再起不能、二度と大きな顔は致しませんというところまで、畳んでやるだけでも構わぬが、相手は相当に厚顔で豪胆な男。護衛の連れも多少はいようし、何となれば息の根止めるも已なしじゃ…と。単独行であることに加えて、刃を振るって逝かせてしまうも選択肢と、暗に暗殺でもあるとの含みを伝えられての初陣で。砂漠の剣豪との異名を持つほどだ、これまでくぐった幾多の戦さの中にて既に、人を斬ったことがない身ではないとはいえ。乱戦の中でかかる火の粉を振り払うのと、相手の隙や油断を衝いて凶刃振るうことが前提になっている“暗殺”と。同じ一太刀でも、その心積もりは大きく違う別物であり。

 “死を恐れず、誇りとしかねぬ宗派の人間だからなぁ。”

 自分が日頃を供にする仲間の中にも居ないじゃないが、その彼とて極端な原理主義者ではないものだから。価値観の掛け離れた相手と単身で立ち会うのは、微妙に緊張もするというか。

 “説いて伏すほど容易な人性なはずはない、か。”

 多少の威嚇や恫喝したところで、主旨替えとまで運ぶ筈もなかろうことは明白。となると、

 “……。”

 背中へと負うた短めの太刀。これも父親の形見だそうで、銃の扱いより難しいはずなのに、銃よりもこっちに特性ありと、めきめき腕を上げたところもまた、血の証しと言われ続けたその刃。今宵はとうとう、已なくじゃあないという格好で、穢すことになりかねぬとの覚悟を固め。小ぶりの磁石と月の方向、それだけ見据えて目的地へと駆ける。自分の蹴立てる砂の音くらいしか聞こえない、耳なりがしそうなほどの無音静寂。青い月光を浴びての疾走は、その身に帯びた特命への助走でもあって。駆ければ駆けるほどにその意識が少しずつ冴え渡ってゆき、雑多なものが次々に剥がれ落ち、集中が格段に研ぎ澄まされる。

 「……。」

 やがて見えて来たのが、人工の光の存在。いつまでも届かぬように思えたそれらが、幾つかの天幕が身を寄せ合うようになった野営の一群だと分かるまで近づいて。向こうも何かしらを警戒しているものか、渓谷跡だろと思わせる岩陰に間近いところへと身を置いていたのが幸いし。それへと添うように身を伏せることで、こちらの気配を消しつつ近寄ることが出来。連れは少ないようで、しかももう夜も遅い。これが街なら過ごしようもあろうが、持って来た酒肴が尽きれば後は寝るしかないよな場所だ。陽が落ちれば夏場でも結構な寒さが襲うのが、砂の大地の厄介なところで。それもあってのこと、天幕はほとんどが既に灯火を落としての暗いものばかりだが、

 “…あれか?”

 一番奥まった位置取りの、豪奢な垂れ幕を用いた天幕には、まだ住人が起きているものか、隙間から洩れる明かりが見て取れ。資料にあった族長の紋章を確認すると、アーミー仕様のジャケットの、その胸板へと斜めがけして渡した太刀の提げ緒に手を触れる。一気呵成に飛び込んで四の五の言わさず仕留めるか。騒ぎが起きてもいいと言われた。それを火蓋にしての蜂起する用意もあると、だから遺憾なく暴れて来いと送り出されたからには、相手を確実に仕留めにゃなるまいて。時折、通りすがる者がおれば、気配を殺し、息をひそめて。天幕の狭間を擦り抜けつつ進軍してゆき、ほんの数分という手際のよさにて、これも月光に青々と染め上げられた、古風な織りの垂れ幕を掻き上げる。物音さえ立てなければいいというものじゃあなくて、たとえば風の吹く気配にも、人はおやと注意を寄せるものだから。消気の術は場の空気との同化。天井から下がってたランプの灯は小さく絞られており、その代わり…こんなものまで運ばせたのか、長椅子に寝転び半分、だらしなくも身を据えた男の姿が見えたので。傍らにいる侍従からの酌を受けてる間合いを測り、色濃い陰を踏んでの壁沿い、素早く中へと身をすべらせる。蓋のついた陶器のジョッキに、そそがれるはルビーの酒か。芳醇な香りがふわりと泳ぐ中、驚くほどの速やかさで標的の間際目指して進んだその矢先、

 「……あ。」

 肩まであらわにした簡素ないで立ちの青年は、もしかしたなら侍従ではなく夜伽の相手か。そんな彼がうっかりと取り落としたデキャンタの、ガラスの栓がごろんと転げて。足元へと敷いてあった厚手の絨毯の上、鈍く光っての転げようはそのまま、侵入者を教えるような軌跡を描いたから。

 「何奴か。」
 「…っ。」

 見顕
(みあらわ)されては致し方がない。背に負うた太刀を一気に引き抜き、一瞬でバネをためた片足を軸にし、あとわずかという間合いを詰めた。躍りかかりはしたけれど、まずは長椅子の背凭れを叩く威嚇をと構えた。尻腰のない輩なら、こういう威嚇でも結構効果はあるもので。最初にガンと咬みついての震え上がらせてから、自分を臨時に雇った用心棒として傍らへ置かせ、威嚇という名の監視を続ける。こやつを頼り(アテ)にしていた陣営に、裾野を任せたその動きの鈍さが伝われば、それで十分足並みも乱れようと思ったのだが、

 「く…っ。」

 ひゅっ・かと、鋭い一閃を浴びせかけた相手は、結構な恰幅をした大男であったにも関わらず、なかなかに身軽な男でもあったようで。ひらりと宙を翔った一撃、何と下から刀の柄を持つ手を見定めての押し上げてしまい、切っ先を大きく避けられた。不発に終わったその上、そうなると形勢逆転、相手の間近、すなわち攻撃圏内に身を置くこととなってしまった自分であり。失速しかけた身を立て直しつつ、繰り出していた太刀を素早く引いて、あらためて身構えんとした矢先、

 「わ…、。」

 不意な声が立って、見やった先では…信じがたいことが。男の杯へと酌をしていた傍仕えの青年を、金や真鍮の飾り鎖で巻いて飾った太い腕にて、自身の懐ろへ強引に掻い込むと、

 「大方、革命軍の派閥が放った刺客だろ。
  だがな、これでどうだ。
  こやつは単なる里の者。ワシへと襲い掛かれば、この刃を引くぞ?
  さすれば、こやつはお前が切ったも同然となろうぞ。」

 そうと言い放ち、選りにも選って自分の連れの首元へ、小ぶりの刃物の切っ先を今にも触れそうなほどにし、突きつけているではないか。青年の側にもそのような覚悟まではなかったか、切れ長の目許を大きく見張り、自分の命へ突然にじり寄る刃を怖々と見下ろすばかり。

 「…ちっ。」

 乱闘の中での身ごなしや手口、そんなところでの老獪さを発揮する練達は山ほど見て来たし、そんな人らには その鮮やか且つ熟練の太刀筋に驚嘆させられるばかりであったが。こんな…自分の侍従を楯にするよな種の老獪さには、二の句が告げずに歯咬みするしかなかったりし。こんな奴に権力与えるような、そんな分別のない権勢だからこそ、倒さにゃならぬというのがひしひし理解出来たが、そんなものは今の今、何の足しにもなりゃしない。乏しい明かりを反射させ、ギラリと濡れたよな光を帯びている短刀を睨み。突きつけられているのは自分じゃあないが、それも同然との重さを感じつつ、どうしたものかという逡巡に捕まっておれば。


  「………それまでだ。」


 幾拍の間合いを数えての後か。不意な声が立ったその途端、驚くほど速やかに、目当ての頭目がその手を引いた。刃を遠くへ離しての、サササッとそれはなめらかに身を離し、数歩ほども下がってから。頭を垂れつつ床へと片膝ついた様は、まるで恭順の姿勢ではなかろうか。その恭順が向けられた先には、ついのさっきまで彼が羽交い締めにして掻い込んだその上で、喉元へ刃を向けてた青年がいるだけで有り。
「…詰めが甘いが、まま合格だな。」
 その青年が、いきなり尊大になっての、こちらへ向けてそんな言いようをするのが…何とも不可解。先程までは、単なる侍従としてかしづいていただけ。存在感さえなかったはずが、今は…それは強かそうな笑みを口許へと浮かべており。鋭くも強靭な視線にて、唐突な来訪者をそれは真っ直ぐに見据えておいで。
「この天幕まで辿り着けただけでも大したものだ。一応は見張りも立てておいたのに、そいつらからは何の先触れもなかったからな。」
「……。」
 場の急転が飲み込めずに睨ねつければ、人質として贄
(にえ)になりかけていた黒髪の青年がククッと短く微笑った。

 「その眸がいいな。気に入った。」
 「これは…つまり、茶番か?」
 「そういうこった。お初にお目にかかるな、砂漠の剣豪殿。」

 さっきまでは従者としての風情しかしなかった存在が、あっと言う間にしたたかそうな顔をし、その雰囲気へも威容をまとう。そちらも随分と威勢のあった身代わり豪士を演じていた大男が、逆にかしこまって控えているのが、だが、何の違和感もなくな人でいる辺り、とんでもない演技力のあった彼らだったことが伺えて。そんなうら若き主の言うには、お前様の属す傭兵部隊の隊長へ、噂の剣豪を見たいと、実力次第で貰い受けたいと申し出たところが、
「本人に会って、直にその腕確かめた上で、当人と折衝しなと言われてな。」
「な…。」
 それはおかしいと、ますますのこと眉を寄せるゾロだ。此処へとやって来たのもその隊長の指示によること。今のところは“任務を全うし、その報告に戻る”という段階でせいぜいのゾロに、自分の身の振り方を自身で決めるよう運ばせるだなんて、
「あの人がそんなことを言うはずがない。」
「言ったんだよ。」
 ランプの明かりの乏しさの中、自分と変わらぬ年頃かと思っていた青年が、だとすればそれには全く見合わぬまでの、蓄積匂わす苦渋をその表情へと載せる。そして、

 「今宵、ゲリラ狩りがある。」
 「…っ。」

 大したことでもないような衒いのなさで、だが、軽々しいことではないのを承知か、くっきりと泰然と言い放ち、
「政府軍の掃討部隊が、ゲリラたちのキャンプ地近辺を四方八方から一斉に、端から端までって勢いで狩るんだそうだ。」
「……。」
 自分には知らされてはなかったことだ。頭数に入っていなかったからだろか。それとも、こちらの彼らにしか届いてはない情報か。途轍もない一大事には違いなく、その表情がありありと強ばったゾロへ、

 「民間人や非戦闘員の見境もなしの、言ってみりゃ虐殺だな。」

 差し向けられた一言の鋭さへ。最後まで聞けずにきびすを返しかかった、砂漠の若き傭兵殿のその眼前へ、

 「…っ。」

 ほんの鼻先、刃の放つ殺気は既に肌へと触れているほどもの間近へ、研ぎ澄まされた大太刀が水平に差し渡されており、

 「おいおい。
  もしかしてこれから頼りにする駒になろうかって精鋭だ。乱暴はよせな。」

 半端な者なら、うっかり踏み込んで鼻骨をつぶされていたかも知れぬ。そうまで揺るがぬ刃を睨み据えておれば、それを構えていた男が やはり音もなく刀を引き、気配なくその身をも天幕の外へと引いた。気づかなかったというよりも、今の今まで気配を殺していたらしく、他にも何人か、周辺へと集まって内部を伺っている者らがいると、今になって…十分に気を絞った上で拾い上げたゾロであり、

 「これだけの練達がいて。尚、俺の腕まで欲しいってか。」
 「ああ、欲しいねぇ。俺は今、護衛官をつのってるところでね。」
 「命が惜しいのか。」
 「ああ。」

 何だ、やっぱりそんな程度の野郎かとふんと鼻先で笑ったようなゾロの態度へも、そちらこそ愉快というよな顔になって笑った彼で。

 「命を惜しむのがいけないことかな。」

 悪びれもしない口調で言われた一言は、ある意味、廉直な真理でもあって。逆にゾロの側が言葉に詰まっておれば、
「少なくとも親より先に逝くような親不孝はしたくないし、冗談抜きにな、俺の命は俺だけのもんじゃねぇんだ。」
 青年はそうと言い、背後の長椅子へと腰掛ける。背もたれへと掛けてあった薄手の織物を、ひょいとその肩口に羽織ると、馬子にも衣装か随分と風情や印象が変わって見えたものの、

 「へぇ?」

 自分だけの命じゃあないとは大仰なと、ついつい疑わしい目つきのままでおれば。信じてねぇな、これでも結構支持者もいるよな立場なんだぜ? そんな風に言い出す彼であり。ま、ウチの部隊へ直に何かしら依頼出来るくらいだ、地域の首長級ではあろうよと、そういう形での納得をしておれば、

 「命を粗末にするのは、そんな支持者の皆さんにも悪いし。
  それより何より、もっと手を焼く坊主がいてな。」

 自分と大差ないほど年若な、されどこの“一味”の眞の頭目殿。そんな一言こぼしつつ、妙に楽しげにくすすと微笑って見せており。気のせいか、周囲に居合わせた気配のどいつもこいつもが、やはり…どこか朗らかに笑ったような気配を届けて来て、

 “な、なんなんだ、こいつら。”

 一応は武装した同士の物騒な場だってのに、何だこのほのぼのしたオーラはよと。面食らったゾロへ、

 「今宵の掃討作戦へ、あんたの部隊も応戦、いやさ徹底抗戦に打って出るそうだ。
  それにあたって、未熟者が一人でも混ざってるとな、集中出来んのだと。」
 「う…。」

 上手く蹴散らせば、逆に相手方の本陣までを追撃し、そのままの勢いで大本営までを殲滅と運べる。非戦闘員がいても構わぬとの一斉攻撃を仕掛けるような、非情で身勝手な策を、自分らの保身優先で紡ぎ出せるような組織が王府として立ったなら、確かにこの辺りの地域はお先真っ暗だろうから。俺らとしては知り得る限りの情報と、出せる限りの支援を提供したんだが、

 「その見返りが、砂漠の剣豪…ただし今のところは成長過渡、ってお人を、」
  この天幕へと遣わすこと、だったってワケでな。」

 「…っ、それじゃあ…。」

 言い返しかかったその間合い。語尾を齧るよに爆音が遠くで上がる。先程、そこから出て行こうとしかかってた出入り口の垂れ幕越し、不意な稲光のように目映い光が起きたのが透けて、

 「始まったか。」

 ぽそりと、その場へ無造作に転がすように、言わでなことをわざわざ口にした頭目殿の視線もまた、垂れ幕の向こうを向いている。この自分を遠ざけたのはもしやして、勝算が低い抗戦になりそうだったからではなかろうか。強わものの集いし部隊ではあるが、それでも数には押される少数精鋭。それに、自分にそのような傾向がまず染み付いていたように、妙なところで非情になり切れぬ顔触れも多い。彼らのそれは強いからこその余裕だろうさ、何となりゃ、勝つための選択に迷うこともなかろう百戦錬磨の鬼たちだろうが、それでも…どうして自分を遠ざけたのかが気になってしようがないゾロへ、

 「なんて顔をしてやがるかね。」

 向かい合っていた男が、今度は静かな声を出し、

 「案ずることはない。お前様の部隊は勝つさ。
  今宵はこの地域にとっての歴史的な夜となる。」
 「だが…。」

 その場に居合わせぬ、置いてもらえぬ戦さほど、歯痒く不安なものはない。庇われたのかと思えば自分の未熟さが悔しいし、自分でも足りたかも知れぬ手が足らずでの、思わぬ窮地に陥ってないか、それを思うと居ても立ってもいられない。ああこういうところが、気の逸りを押さえられぬのが、今の俺の唯一の難だと教えたいのだな。だがそれならば、現地に連れ出してくれりゃあいいのに、その方が身にも付くのにと、思うだけでは収まらず、怖いくらいに思い詰めてたそのお顔、ぐっと力ませたままで振り上げると、再び踵を返したゾロへ、

 「判らん奴だな。」

 ずっと語り続けてた男の声が、意外なほどの間近で立って。え?と首を巡らすと、何歩分かまだ離れたところの長椅子にいたはずの彼が、音も気配もないまま、すぐの傍ら、真横に立っており。

 「な…っ。」

 こうまでの至近へ無造作に人を寄せたなんて、怪我でもしていての治療のためを除いては、生まれてこの方の初めてじゃあなかろうか。それほどの驚異についつい身がこわばったその隙を、しゅっと白い何かが薙いだ。視線だけが反射的に追ったそれは、彼の指先に灯された小さな炎で、

 「動態視力が良ければ良いほど、かかってしまうんだから皮肉だよね。」

 素早く動いた炎を追えたから、そのまま まんまと術にはまる。優れていればいるほど堕ちるのだと、そういう意味だと分かったのは、次に意識が戻ってからのこと。一体どんな術なのやら、意識がふっと遠くなってゆく感覚に襲われ、その身が敢え無く頽れ落ちたのを、一番最初に頭目と間違えた大男がひょいと受け止め、

 「…お人が悪いですよ? 殿下。」
 「何だよ、嘘は言ってないじゃないか。」

 シモツキの部隊はきっと、革命自由軍の陣頭に立って敵陣へなだれ込むだろうさ。それだけの実力は十分あるのだし、バックアップも万全だ。

 「このところ やたら血が滾ってたらしいこちらさんの処遇を、
  どうしたものかと案じてらしたのも、こうして無難に解決したのだしな。」

 偉大な先人の落とし子は、やはり人並み外れた素養をお持ちの逸材で。だからこそ、名もなき傭兵で終わらすには惜しい人材だと思った皆様が、その情報を聞くや否やそれっと飛びついたのが。その筋じゃあいろんな意味から名を馳せているR王国の、エース皇太子が練達を募っているとの噂話。名目は“護衛官”だが、その実、様々な諜報活動や何やへの人材収集。そちらにしたって、公けの場へその名が読み上げられはしないお役目なのだろけれど、自由への血路を開くための馬力として アテにするだけってのは何とも勿体ないと。

 “腕の程は大したものだが。”

 今宵の侵入劇のみならず、実は既に情報を収集済みの、こちらからも目をつけていた逸材には違いなく。ただ、

 「若気の至りか、まだ少々非情になりきれんところがな。」
 「外回りには向いてませぬか。」

 オトリの“頭目”演じた男が、別のソファーへと人事不省の剣豪殿を横たわらせつつそう問えば、

 「ああ。さっきのような場面で腹芸の一つも出来んようでは、ちょっとな。」

 何だったらルフィに引き合わせてもいいのだが。あ、それは危険ですよ? 何でだ、おい。だって、ルフィ様は伝説の剣豪に憧れておいでです。

 「転輪王か?」

 亡き母がよく語ってくれた、彼女の母国の伝承話。そこに出て来る英雄かと問えば、はいと頷首した彼は続けて、

 「この彼の、年に見合わぬ重厚さ、あの勇壮さに通じるものがありませぬか?」
 「…う〜ん。」

 はてさて、この歴史的な夜が砂漠の剣豪こと、ゾロ氏には一体どんな転機となるのやら。招かれた国が“地中海の奇跡”と呼ばれる長閑さの裏で、別名“海賊王の国”とも呼ばれていること、思い知らされるまでは、ここから更に3年を要するのであった。






  〜Fine〜  09.12.11.

  *カウンター 332、000hit リクエスト
    syoka様 『Moonlight scenery 設定で、
         ゾロがエース皇太子に見初められ、ルフィと出会うまで』


  *ふっふっふ。いつか聞かれるんじゃないかと思っていましたともさ。
   思えば、随分とシリアスな始まり方をしたはずのお話ですのにね。
   このところは、
   妙に…お笑い路線も多かりしなシリーズになっていませんかと。
(苦笑)
   そんなシリーズの“エピソード0”です、いかがでしたか?
   折しも本誌では、
   エースお兄さんの処刑という展開の中の正に正念場。
   ルフィの奮闘は実を結ぶのか、
   これでもかと続々並び立つ、
   大御所たちの鬩
(せめ)ぎ合いはどう決着するのか。
   映画も合わせて、
   ワンピファンには引き続き興奮の冬となりそうですvv

   この世界の海軍が、
   正義を謳いつつ、でもでも恐ろしい組織だって事も
   またもや余さず描かれていますよね。
   こんな大きな、歴史が動くほどと言っても過言じゃあないよな騒乱も、
   世界中にはほんの一部しか知らされないかも知れない。
   政府発表とか、
   テレビのニュースで報じていたからというだけじゃあ、
   鉄板レベルの情報とは言えぬ状況とか場合だってあるという、
   そんな恐ろしさを、ちらとでも知る、良い機会でもありますよね。
   情報統制されてる地域じゃあ、こういうことがなされている訳です、はい。

めるふぉvv ご感想はこちらへvv *

ご感想はこちらへvv**

back.gif